【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(3)

愛犬情報

犬種:ミニチュアダックスフンド

病名・症状:歯周病・子宮の不具合・ヘルニア

発症年齢:14歳~・15歳~・18歳

発症の経緯:14歳の時突然右頬が腫れあがった

治療法:投薬~歯石除去&抜歯手術・再生医療

 

<関連記事>

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(1)

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(2)

 

 

ヘルニア治療スタート

 

クリンが手術を受けてから、それまでずっと悩んでいた食べムラ・食い渋りが少しずつ改善されていきました。

術後数日はほぼ食べませんでしたが、術後5日目にフードを食べてくれるようになってからは、ほぼ毎日フードを食べるようになりました。多少のムラはありましたが、術後2週間で抜糸してからは食欲も安定し、食べないという理由での強制給餌の回数も減りました。

ところが、抜糸しても曲がった腰はそのままの状態でした。最初は傷がつっぱるのかと思っていましたが、それがヘルニアの痛みが出始めたサインでした。手術後もお散歩は大好きでしたし、歩けなくなるということはありませんでしたが、腰の曲がりは一向に改善されませんでした。

検査の結果、椎間板ヘルニアの痛みが出始めたということがわかりました。

先生のお話では、術前にも腰の痛みがあったかもしれないが(レントゲンの画像診断では痛みが出ているレベルのヘルニアとの診断でした)、それよりも子宮と歯の方の痛みが強く、ヘルニアの痛みはさほど気にならなかったのだろう、とのことでした。

痛みはあるものの、生活に大きな支障はなかったことから、「アデクァン」という薬剤を筋肉注射する治療をすることになりました。

これは、痛みのある部位にクッションの役割となる物質を注射するという治療法で、最初の1ヶ月は週2回(月8回)の注射をし、その後少しずつ回数を減らしていき、月1~2回は継続して注射を打つという治療法でした。

初めてのヘルニア治療でしたが、注射が効いたようで痛みは随分軽減されたようでした。副作用も心配なかったので、この治療を継続することにしました。

治療を始めて3ヶ月は順調でしたが、注射を月1回にしたところ、腰の痛みが再発したようでした。クリンの場合は体に不具合や痛みがあると食い渋りが出るため、食欲が落ちたり食いつきが悪くなるとすぐに病院に行きました。

鍼治療とアデクァン注射の回数を増やして様子見していましたが、ほどなくしてまた食い渋りが出始めました。4月半ばのことでした。実は以前よりヘルニアと水頭症治療のために「再生医療をしてはどうか」と提案されていましたが、なかなか炎症が治まらなかったため、先送りになっていました。

再生医療をする方向で血液検査をしてもらったところ、なんとCRPが19という結果でした。原因はやはり歯の不具合でした。

クリンは投薬の失敗から口を触らせてくれなくなり、歯石を取ってもらってからも歯のケアはほとんどできず、手術からたった5ヶ月で結構な量の歯石が付いていました。

若い頃はしっかり噛んで食べられますし、お水もたくさん飲むことができるため、口の中に食べかすが残りにくいのですが、高齢になると飲み込む力が落ち、口の中に食べかすが残りやすくなるため、どうしても歯石が付きやすくなるようでした。

残念ながら、再生医療は一旦お預けとなり、歯の炎症を抑える治療をすることになりました。

 

 

再生医療~二度目の手術まで

 

歯の炎症を抑えるため、抗生剤を処方されました。高齢のため、できるだけ副作用が少なくて、体に負担のない薬を選んでいただきましたが、薬の耐性がついてしまっていたこともあり、長期にわたり薬を飲み続けることになりました。週に1~2回血液検査を受け、薬の効きを確かめ、数値が改善していないと薬の変更をするということを数度繰り返しました。

クリンは肝臓が弱く、転院した当初からGPT数値は100を超えていました。腎臓は大きな問題がなかったため、最初は肝臓に負担の少ない薬を選択しましたが、効きが悪かったので肝臓に負担のかかる薬に変更しました。なんとか炎症数値は治まりましたが、GPTが500を超えてしまったため、抗生剤をストップして再生医療も数値が落ち着くまで見送りとなりました。

※薬は肝臓に大きく負担のかかるタイプと腎臓に大きく負担のかかるタイプの2種類あるそうです。

 

それから約4ヶ月間投薬とヘルニア治療を続け、8月になりやっと再生医療を受けることができました。再生医療後はとても調子がよくなり、足取りも軽やかになりました。10月には頸椎ヘルニアの痛みが出始めたため、二度目の再生医療を受けました。

再生医療は副作用がほとんどないためリスクが低く、ヘルニアだけでなく脳疾患や心臓・腎臓など、治療が難しい病気にも効果が期待できる反面、癌や炎症などがある場合はそれを悪化させてしまうこともあるそうです。

クリンの場合は、問題のあった歯に影響があったように思います。歯石取りと抜歯してからも、歯の炎症が治まらず、1回目の歯の処置をしてから今年の3月までの1年4ヶ月の間で、抗生剤を飲まなかったのは3ヶ月あるかないかくらいでした。

もしクリンがもう少し若ければ、問題のあった奥歯を抜歯してもらっていたと思いますが、クリンの年齢を考えると長時間の麻酔は非常にリスクが高く、ぐらつきのある歯しか処置ができない状態でした。

再生医療の影響もあってか、抗生剤を止めると炎症数値が上がり、また薬を飲むということを繰り返していて、肝数値も少しずつ上がっていたため、いつかは歯の治療が必要になると考えていました。一度目の再生医療をした後の9月から、歯の状態をこれ以上悪くしないために「デンタルバイオ」という口内細菌の繁殖を抑えるサプリメントを使うようになりました。

 

わたしは過去に何度も「もっと早くやっておけばよかった」と後悔することがありました。もっと早く転院して子宮を取ってもらっていたら、こんなに食い渋りに悩むこともなかったかもしれませんし、高齢のクリンに痛い思いをさせずに済みました。投薬の失敗から口の中を触れなくなってしまったのも、最初からシリンジで飲ませることができていれば、こんなに歯の状態が悪くなることもなかったと思います。この後悔から、できるうちにやれることをやった方がいい、と考えるようになりました。

歯の菌の怖さについては、いつも病院で聞かされていました。歯が悪い場合は最優先で治療をした方がいいし、悪いまま放置すると他の臓器に影響を及ぼす可能性が高いといわれていたため、先生からストップがかからない限り、できる治療は何でもやろうと考えていました。

先生に歯の治療について相談したところ、調子がいいうちに処置をした方がいいだろうとのことで、2018年12月3日に2回目の抜歯と歯の掃除をしていただくことになりました。

 

 

2度目の手術~術後の変化

 

歯の処置をする時、クリンは18歳10ヶ月になっていました。病院でも麻酔をする最高齢だといわれました。もちろん不安はありましたが、先生を信頼していたこと、これが最後のチャンスであることから、迷っている時間がもったいないと考えました。

 

そして手術当日を迎え、オペ前検査すべて無事クリア。クリンは麻酔に耐え、無事帰ってきてくれました。抜きたかった奥歯はまったくぐらつきがなくて手付かずとなりましたが、小さな奥歯を1本だけ抜いてもらいました。トータルでかかった時間は、歯の掃除と合わせて20分弱でした。

麻酔はガスのみで挿管はしなかったそうです。管を喉に通そうとしたら、ガスで眠っているはずなのに全力で喉をしめて管を阻止したそうです。「この子は誤飲することはないと思うよ」といわれ、思わず笑顔になりました。

術後の経過は順調で、多少の食い渋りはみられましたが、1日1回はフードを食べてくれましたし、二度の再生医療の効果もあり、ヘルニアについては痛みもないようでした。相変わらず歯を触られるのは嫌がっていましたが、痛みが軽減したこともあり、以前よりは反応しなくなっていたので、食後に食べかすが残らないよう、シリンジで唇と歯の間を洗浄したり、指で食べかすを取ってできるだけ歯石がつかないようにケアすることができました。

二度目の麻酔は、時間が短かったため術後も平熱体温だったこと、その後の血液検査でも問題なしだったので、影響はほぼなかったと思います。計2回の手術はどちらもうまくいきました。ヘルニアという不具合は出ましたが、これも想定内。わたしはやってよかったと心から思います。

ただ、もう少し若い頃にしてあげればよかった、と思っています。

もっと早く積極的な治療を選択していれば、クリンはもっと楽に過ごせたし、人間でいうと90歳を過ぎた年齢でこんなに痛い思いをすることもなかったでしょう。

そして高齢になればなるほど慎重に事を進めるため、医療費もかさみます。若い頃の避妊手術なら数万円で済みますが、クリンの場合は数十万円かかりましたし、術後の通院も若い子なら数回で済むところを、十数回は通いました。

 

 

老犬の医療費は、楽に旅立つための保険料

 

老犬になってからの医療費は、眠るように旅立つための保険料だと思っています。

クリンは14歳までほとんど病院のお世話にならず、心臓の薬を飲み始めたのは16歳になってから。毎月かかる医療費は17歳になってからぐんと上がり、旅立つまでの約2年間でかなりの金額になりました。でも後悔はまったくありませんし、やってよかったと思っています。

クリンが18歳を超えてから、近い将来に必ずやってくるお別れの覚悟を少しずつしていました。いつか来るその時に、笑って見送ってやれるように、自分にできることはできる限りどんなことでもしよう、と心に決めていました。

もし昨年12月に歯の治療をしなければ、もう少し長生きしてくれたかもしれませんし、歯の不具合もさほど問題なかったかもしれません。でも治療をしなければ、抵抗力が落ちて体中に菌が回ってしまい、心臓が悪くなったり、他の臓器に不具合が出ていたかもしれません。

積極的治療を選択したからこそ、最後の血液検査・エコー検査でほぼ問題なしと診断され、治療を一旦終えることができ、「元気なままピンコロ」で旅立ってくれたのだと思っています。

何よりも大切なのは、飼い主自身が納得して決断しているかだと思います。先生に遠慮して質問できなかったり、セカンドオピニオンを受けたいけど言い出せなかったり、不安な気持ちのまま治療を続けることは、のちに後悔することになってしまうのではないでしょうか。

 

クリンは19歳の誕生日以降、目に見えて機能が落ちました。ご飯を食べても太れなくなり、食べる量が少ないとすぐに体重は減ってしまいました。お散歩では楽しそうに走っていましたが、リードを引っ張っていないと転んでしまうこともありました。後足がつっぱってうまく曲がらないことや、前足が脱力して転倒してしまうこともあり、車いすを使おうか考えていた矢先の旅立ちでした。

きっとクリンは、自由に動けなくなってしまう前に、自分の意志で旅立ったのだと思っています。

どんな困難にも立ち向かい、辛い治療に耐え、病気に負けず、天寿を全うしてくれた。そんなクリンを、わたしはとても誇りに思います。

 

 

積極的治療は良い面も悪い面もあります。

どんな治療法を選択するかは飼い主にゆだねられます。どの病院を選択するか、どの先生に診てもらうか、どの検査をしてもらうか、どの薬を使うかなど、すべてわたしたちが決めるほかありません。

そして、どれだけできることをしても、大切な我が子をなくす辛さは同じです。今まで当たり前に傍にいてくれた存在がいなくなってしまうことは、たとえ天寿を全うしてくれたとしても悲しいし寂しいし苦しいです。

でも、後悔や悔いがないだけで、心は救われます。

皆様の大切な我が子が、元気に長生きされますように。そしていつか訪れるその時に、笑顔でお見送りできますように。

 

 

高齢犬の積極的治療をして~飼い主としての感想まとめ

 

【良かったこと】

・食欲が増す/普通にご飯を食べてくれるようになった(食べムラ・食い渋りの改善)

・毎日元気に過ごせる/最期の時までお散歩に行くことができた

・日々の変化をそれまでよりも敏感に察知するようになり、体の不具合に早く気づけるようになった

・旅立つ直前まで元気に過ごしてくれた(元気あり、食欲旺盛、自力で排泄、穏やかな睡眠)

・天寿を全うしてくれたと思える最期を迎えることができた(飼い主の願い通り、元気なまま眠るように旅立ってくれた)

 

【良くなかったこと】

・麻酔で体温が下がることにより、別の症状(クリンの場合はヘルニア)が出始めた

・高齢で痛い思い(怖い思い)をさせてしまった

・高齢になればなるほど、医療費(治療費用)がかかった

 

 

 

 

 

ライター:福井 惠子

 

 

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(2)

愛犬情報

犬種:ミニチュアダックスフンド

病名・症状:歯周病・子宮の不具合・ヘルニア

発症年齢:14歳~・15歳~・18歳

発症の経緯:14歳の時突然右頬が腫れあがった

治療法:投薬~歯石除去&抜歯手術・再生医療

 

【関連記事】

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(1)

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(3)

 

 

術前検査~手術当日

 

転院先の病院は、しっかりと検査をして状態をできるだけ正しく知る、という方針でした。

血液検査・エコー検査・心電図・血圧・CT・レントゲンなど、ありとあらゆる検査をしました。CTの結果、中度の水頭症であることがわかりましたが、当時は特に症状が出ていなかったため経過観察となりました。そして心電図で不整脈があることがわかりました。

歯の状態も悪かったのですが、何よりも子宮の方が問題がありましたので、今回は子宮摘出がメインで、心臓の状態によっては命優先で歯は治療できないかもしれない、といわれました。

そして麻酔に耐えうるかどうかの判断が必要となりました。ホルター心電図を装着して24時間の心臓の動きを確認することになりました。検査の結果、不整脈はあるものの、それ以外は大きな問題はないとの診断でした。

一通りの検査結果、現段階ではおそらく手術はできるであろう、との判断となりました。

とはいえクリンはまもなく18歳を迎える超高齢。年齢を考え、何かあった時にすぐに対処できるよう、他の手術の予定があまり入っていない日にしますとのことで、手術は2017年11月3日に決まりました。

 

早く手術を受けて楽にしてあげたいという気持ちと、もしかしたらそのままということもあるかもしれないという気持ちで、落ち着かないままいよいよ手術当日を迎えました。ワンワンラボライターの奥村さんが、わざわざお守りを送ってくださり、毎日手を合わせ、手術当日もポケットに忍ばせて持っていきました。

当日は血液検査と、麻酔で心臓が弱った際に使用する強心剤のテストと、血液凝固検査を受け、すべてパスしました。

麻酔が効くまでに30分、処置に最低30分はかかるだろうとのことで、早くて1時間くらいで出てくるといわれ、抱っこされて連れていかれました。

 

待っている間、ずっとお守りを握りしめ、無事を祈っていました。

病院の外で待っていたら、1時間立たずに看護士さんが呼びに来てくれました。看護士さんに抱えられて戻ってきたクリンは、まだ麻酔が効いて朦朧としていました。口は開いていて血を出していて、初めて見る姿にこのままどうにかなってしまうのでは…と思いました。この病院は基本飼い主がそばについているという方針でした。初めて見る術後すぐの朦朧としている状態は、本当に怖かったです。

体温が35℃台に下がっていたため、ヒーターと暖房と電気ストーブとドライヤーでクリンの体を温めてもらいました。ほどなくして声を上げ、顔を下に敷いていたバスタオルにこすりつけだしました。先生が降りてこられ、手術は問題なく無事終わったこと、歯石がかなりひどかったこと、歯自体の状態は思ったほど悪くなかったこと、1本だけ抜歯したこと、その他の歯はぐらつきなくしっかりしていたこと、時間の関係で歯石は取ったけど磨くまではしていないことなどを伝えられました。

子宮を見せてもらうと、片方の卵巣が大きくなっていました。「これが痛みの原因だったと思う」といわれ、もっと早くに転院していればこんなに痛い思いをしなくて済んだのに、と後悔しました。

 

 

術後の経過

 

術後30分くらいして、クリンは起き上がろうとしました。まだ朦朧としていたため、支えながらお座りの体勢にし、点滴をしながら体温が上がるのを待ちました。人間だと手術をした後にすぐに動けないと思いますが、犬はとても強いなと感じました。

昼からの手術で、術後は点滴、注射、投薬をしてもらい、そのまま様子見し、帰路についたのは夜10時を過ぎていました。

帰宅したら、さっそく部屋をうろうろと歩き出しました。傷が癒着しないよう、できるだけ動くようにといわれていたので、少しだけお散歩にも行きました。18歳目前といえば人間でいうと90前の年齢となりますが、足元のおぼつかないままクリンは走ろうとするんです。

クリンの生命力の強さに感動し、この子は大丈夫だと心から思えました。

翌日からは少しずつ食事をしてくださいといわれましたが、なかなかすんなりとは食べてくれませんでした。元々食べムラ・食い渋りがあったことと、今までべったりついていた歯石がなくなり、口の中がいつもと違うことに戸惑っているようでした。奥歯の頬側にもたくさんついていて、その違和感がなくなったことが、今までと違うためかえって違和感に感じたのだと思います。

それともうひとつ。術後の点滴のため、前足には留置針が入っていました。クリンはとにかくこれが嫌なようでした。

結局手術当日と翌日の丸2日は何も口にしませんでした。食欲が戻るまでは朝晩の点滴で水分と栄養を補給してもらい、術後2日目の夜にやっと水と牛乳を少し飲み、当時お気に入りだったおやつを少し口にしました。

その翌日病院に行った時、留置針が嫌で食べないかもしれない、と伝えました。本当は食欲が戻るまではそのままの方がいいとのことでしたが、17年クリンと一緒に過ごしてクリンの性格はよくわかっていたので、食べない理由はこれもあるような気がしたんです。

無理を承知でお願いして留置針を抜いてもらい、皮下点滴と注射で対応してもらうことになりました。

飼い主の予想は見事的中し、帰宅後鶏肝の水煮を少しを食べ、薬を飲んだ後はスイッチが入ったように大量の牛肉をバクバク食べてくれました。

多少の食べムラはあったものの、その日を境に食欲は徐々に戻り、どんどん元気になっていきました。

 

 

手術大成功~想定内の弊害

 

子宮の痛みがなくなり、クリンはみるみる元気になりました。

17歳9ヶ月で一大決心して受けた手術は、大成功に終わりました。ちなみに病院の手術最高齢を更新しました。

この年齢で手術を勧めてくださった先生には感謝しかありません。転院していなければ、クリンは19歳を超えるまで長生きしてくれなかったと思います。

 

大好きなお散歩では走るスピードがアップし、まるでうさぎのように跳ねるように走っていました。

抜糸までは術後着を着ていたため、少し動きにくそうにしていました。お腹のつっぱりがあるようで、少し腰を浮かしたような姿勢でした。傷口も順調に治り、約2週間後には無事抜糸となりました。

やっと術後着を脱ぐことができましたが、クリンは腰を浮かしたような姿勢のままでした。

 

これは、ヘルニアの痛みが出始めたサインでした。

手術前に、麻酔の影響で体温が下がるため、その影響で他の部分に不具合が生じる可能性がある、と聞いていました。クリンはレントゲンで椎間板ヘルニアがあることがわかっていたため、もしかしたら痛みがでるかもといわれていました。

事前に知らされてはいたものの、ここで始めて手術を受けたことによるデメリットを感じました。

 

関連記事:【再生医療】ヘルニアの新しい治療、ステムセル(幹細胞)①

【再生医療】ヘルニアの新しい治療、ステムセル(幹細胞)②

 

 

 

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(3)につづく

 

 

ライター:福井 惠子

 

 

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(1)

愛犬情報

犬種:ミニチュアダックスフンド

病名・症状:歯周病・子宮の不具合・ヘルニア

発症年齢:14歳~・15歳~・18歳

発症の経緯:14歳の時突然右頬が腫れあがった

治療法:投薬~歯石除去&抜歯手術・再生医療

 

【関連記事】

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(2)

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(3)

 

 

積極的治療の選択

 

我が家の長女クリンは、17歳9ヶ月と18歳10ヶ月の時に積極的治療を選択しました。一度目は子宮摘出手術と抜歯と歯の掃除、二度目は抜歯と歯の掃除で、共に麻酔をしての処置となりました。

まもなく19歳を迎えるという年齢での全身麻酔はとてもリスクが高く、どんな影響があるかは、実際にやってみないとわからない、といわれました。

 

ではなぜリスクを背負ってまで積極的治療をしてもらったのか。

それは不具合を放置することで、他の臓器に悪い影響を与える可能性が高い、と考えたからでした。

高齢になってから体の不具合で悩まれている飼い主さんはたくさんいらっしゃると思います。特に大抵の老犬は歯が悪い子が多いと聞きます。犬の場合、歯の治療も全身麻酔となります。

年を重ねるほど麻酔のリスクは高まります。すぐに命に直結する病気などの場合は早めに処置を希望される飼い主さんが多いと思いますが、歯の治療になると投薬などで様子見される方がほとんどで、積極的な治療をするか悩んでおられる飼い主さんも多いのではないでしょうか。

今回はクリンが実際に17歳9ヶ月と18歳10ヶ月で積極的治療を選択した経緯と、自分自身が感じた積極的治療のメリットデメリットについて書かせていただきたいと思います。

 

 

不具合の始まり~右頬の腫れ

 

クリンが14歳のある日、突然頬が腫れあがりました。いきなり右目の下がぷっくりと腫れていて、驚いてすぐに当時通っていた病院で診察を受けたところ、歯が原因であるといわれ、数種類の薬を処方されました。

この薬、後でわかるのですが、実は「ステロイド」でした。

薬を飲むとすぐに腫れは治まりました。でも薬をやめるとまたすぐに腫れ出して、当時全く知識のなかったわたしは、その病院で出される薬がとても効果があるのだと思っていたんです。でもこれって、実はただステロイドで腫れを無理やり抑えているだけで、根本治療は全くしていないんですよね。

もしその時、今の病院に通っていたら、おそらく抜歯などの根本治療を選択していたと思います。

ちょうど同じくらいの時期に胆泥症が発覚し、胆のう摘出手術を強く勧められたことが病院に対する不信感となり、セカンドオピニオンを希望しました。そして投薬で治療してもらえる病院に転院しました。転院先の病院で、歯の腫れのことも相談し、その時は歯石はさほどひどくなかったため、麻酔なしで歯石を取ってもらいました。それ以降歯の腫れは一旦落ち着いたため、そのまま何もせずに過ごすことになりました。

この頃は、14歳でもかなりの年齢だと考えていました。今思うとめちゃくちゃ若いなぁと思いますが、当時は寿命は15歳くらいなんだろうと漠然と思っていました。なので14歳で手術なんて…と考えていました。

そして、この時強く勧められた胆のう摘出手術について、このままだと命の危険性があるとまで言われていましたが、転院先の病院では胆のう摘出については、する必要はないといわれました。

 

余談になりますが、この病院はニコの乳腺腫瘍を発見し手術をしてもらった病院でもあります。しかしこの病院を選択したことが、ニコの心臓病を発症したきっかけになったと思っています。あくまでも主観であり証拠などはありませんが、主治医の先生はオペ経験が少ない方で、恐らくニコの手術の際に長時間の麻酔をかけたことで心臓に負担がかかったことが心臓病発症の原因であったと考えています。飼い主の知識不足でニコの寿命を縮めてしまったことは、今でも大きな後悔として残っています。

病院選びは我が子の寿命に直結しますし、本当に心から信頼できる病院に出会うことはとても難しいことだと改めて思います。

 

 

ターニングポイントとなった15歳の出来事

 

2015年5月、クリンが15歳の時に突然前足を引きずりだしたことがありました。この時に処方された痛み止めの薬で胃が荒れたことでご飯を食べない日が出てきて、6月にヒートになった時から本格的に食べムラ・食い渋りが始まりました。

このヒートでは、いつもより経血量が多く、検査の結果子宮内に水があるといわれました。診断は子宮水腫。子宮蓄膿症の前段階のような病気です。

 

※当時、食欲について書いていたメモ

 

このまま3ヶ月ほど食べたり食べなかったりを続け、やっと落ち着いた10月に、またヒートが始まりました。ここでまた食べない日が続き、点滴を受けながら様子見していましたが、突然クリンの具合が悪くなり、膵炎の疑いで入院することになりました。

薬を飲まないと相談したところ、先生から「口を開けて喉の奥に入れるか、好きな食べ物に隠して食べさせて」といわれました。これこそが、この後約4年に渡って悩むことになる「食べムラ・食い渋り」の始まりであり、口腔ケアが一切できなくなった原因になりました。

先生にいわれた通り、無理やり口をこじ開けて飲ませようとし、何度も失敗しました。

「何とか薬を飲ませなきゃ!」という一心で、鬼の形相でクリンの口をこじ開け、薬を入れて口を閉じさせる。最初の何回かは飲ますことができましたが、その後は全く口を触らせてくれなくなってしまいました。

実はこの薬、めちゃくちゃ苦かったんです。

あまりに嫌がるため、ある時ふと「どんな味なんだろう」と思い、薬を少し舐めてみたんです。すると驚くほど苦いことがわかりました。焼いた牛肉に薬を巻きつけて隠していたため、薬が肉の水分で溶けて肉自体が苦くなっていたんです。

クリンはとても聞き分けのいい子でした。それまでは口の中をガーゼや指でこすったり、歯ブラシを噛ませたりしていました。全然嫌がることもありませんでしたし、ケアする時はとてもおとなしくしてくれていました。頻繁にしていたわけではありませんが、それだけのケアでも歯石は少ししかついていませんでした。

ところが投薬の失敗から、全く口を触れなくなりました。食べ物への不信感が生まれ、食べることを嫌がるようになり、食べムラ・食い渋りによりフードを食べてくれなくなったことなどから、口の中の状態はどんどん悪くなっていったように思います。

 

そしてクリンが15歳になり、今度は子宮の不具合が発覚しました。ヒートから陰部の腫れが引かず、食欲が落ちたため病院で検査をしてもらったところ、子宮内に水が溜まっているのがわかりました。恐らくこのあたりから子宮に痛みが出始めたのだと思います。

口腔ケアができなくなったことでの歯の不具合と子宮の痛み。これこそがクリンの食べムラ・食い渋りの原因でした。

 

関連記事:【備忘録】クリンの体調

 

 

投薬治療~手術の決心

 

口腔ケアができなくなってから約2年。その頃には目で見てわかるくらい歯石がひどくなっていました。特に奥歯はべったり歯石がついていて、口の中はかなり不快だったと思います。

17歳8ヶ月の時、口を痛がるようなしぐさが見られたため、最初の時にペンチのような器具で歯石を取ってほしいとお願いしたところ、クリンは口を触られるのを嫌がるため無理、といわれました。これがきっかけで転院することを決意しました。

 

転院先は、ブログで知り合った方が長い間通っておられた病院でした。

病院によって治療の選択は大きく変わります。クリンはすでに18歳目前。前の病院では、14歳の時に積極的治療はリスクが高いから内科治療をしましょうといわれていましたが、この病院は「治せるものは治す」という考えでした。

歯の状態がとてもひどいこと、そして初めての診察の時、触診で子宮の痛みがあることをすぐに指摘されました。

先生は、「歯の治療について、飼い主さんは割と軽く考えている人が多いけど、本当は歯は命取りになる」といわれました。

歯の菌はとても恐ろしく、それが原因で心臓が悪くなり、あっという間に旅立ってしまう子もいるとのことでした。

病院によっては投薬で抑える治療を選択されるところもあります。実際にクリンも最初に歯が腫れた時は、ステロイドで抑えるという根本治療とはかけ離れた治療をしていましたし、病院の選択次第で全然治療法が違うということを思い知りました。

年齢的には非常にリスクが高かったのですが、子宮に痛みがあること、このまま放置すると子宮蓄膿症が重篤化し、命にかかわる可能性があるため、もし治療するなら1日も早く取ってしまう方がいいこと、そして歯の不具合を放置したら、他の臓器に悪影響を及ぼす可能性があること。年齢を考えると、迷っている時間はありません。老犬になると、ほんの少しの時間も命取りになります。

わたしはクリンの生命力を信じ、すぐに手術することを決意しました。

 

 

【老犬の病気】高齢犬の積極的治療のメリット・デメリット(2)に続く

 

 

ライター:福井 惠子